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1331. Half & Full

スコアミッシュでいま一番輝いているトレイルと言えば、勿論"FULL NELSON"です。トレイルが固有名詞で示され呼ばれるようになったのは、カナダにおいてもいったいいつの頃からなのかは知りませんが、トレイルビルダーが名もなきボランティア精神に富む趣味人であった時代においてではなく、プロフェッショナルな職能がもたらす作品として意識されるようになった時代以降のこと、ではないかと僕は予想します。

FULL NELSONといえば、今年6月に全世界で発売になった映像作品"Strength in Numbers"のラストセクション、何人ものトレイルビルダーの肖像が紹介された直後の、ブランドン・セメナックがまだ固まりきっていないトレイルの土を蹴散らしながら疾走していくシーン。あれがFULL NELSON。勿論ジャンプもバックフリップも凄いんですが、僕が一番お気に入りなのは、左から右へとでかいバンクを猛烈なスピードでひねり込んで切り返していくシーンです。アレを見たい。いや、もちろん走るつもりでしたから、自分も走りたい。どれくらいブランドン・セメナックがMTBの超おばかさんなのか自分の中でハッキリさせたい。今回腰痛でライドはできない体でしたが、当日歩くまでには復活しましたので、下から全部歩いてコースをたどっていきました。

DVDの映像を見ていて僕は妙だと思っていました。左側に半分消えたところで切り返すんですが、その一瞬の時間の、タイミングのずれみたいなのが気になっていました。もっとスパーン!と切り返していくような走りにどうしてならないのかと。でも現場にたどり着いたらなにもかも分かりました。

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普通の靴では滑ってしまい、歩いて上り下りできないくらいの劇坂だったんです。あの切り返しは。高さも桁違いで、左に曲がるバンクに進入する入り口がビルの3階の窓、右に抜けていく出口が半地下駐車場、てな感じです。しかもバンクとバンクの間は、尖ったリップが尾根状になっています。ノーブレーキで全開でリップを越えていったらほとんど自由落下状態です。最初のバンクを最後まで使ってしまうと、リップではじかれて左下の画面外に吹き飛んでサヨーナラです。やっぱりブランドン・セメナックは超が100個付くくらいのおばかさんでした。

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それにしてもアースデザインが美しい。僕は20数年景観デザインの専門家をやってますので、古今東西の造園作品とか土木の切り土盛り土の法面土工とか歴史的建造物とかインスタレーションアートやランドアートとか、もう散々見慣れてる訳ですが、このトレイルの造形輪郭がびっくりするくらい感動的で秀逸なのです。ただ気持ちよく走れればそれで良いのではなく、土の造形とそこを走るライダーの動きの残像のようなものが自然の中に美しく昇華されて収まっている。参りました。

今年の5月に開通したこのFULL NELSON、実は3年前に、同じトレイルビルダーの手によるHALF NELSONが同じ斜面に作られています。入り口は正反対方向からですが、後半で合流する作りになっています。

作品というのは突然ひらめいて出現するようなものではなく、常に習作を重ねながらビルダー自身がビジョンを磨いていく中で、必然的に生まれてくるもの。FULL NELSONは、単なる単独の1本の美しく素晴らしいトレイルというだけにとどまらず、ブリティッシュコロンビアにおけるトレイルビルディングという文化と技術の結晶だと感じます。世界じゅうから走りにくるわけだわこりゃ。ドロップインの前には手を合わせて拝みましょうみなさん。そして思い切り駆け抜けましょう。
by sadepon | 2012-09-13 23:21
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